先週末は、日本教育法学会参加で上京した。他の論文書きや学会報告準備のこともあり、いつもながらギリギリで余裕のない状態で家をでた。新千歳空港に行く途中の両側の景色はすっかり緑なす初夏直前の風景に転じていた。ついこの前までは、樹木には葉もなく、雪景色の中にわびしい点景を添えていたのだから、この地の季節変化はダイナミックだ。
今年の教育法学会の会場は国士舘大学。渋谷にホテルをとったので、東急田園都市線と世田谷線の乗り継ぎで、世田谷キャンパスに向かった。世田谷線は、三軒茶屋と下高井戸を結ぶ線だが、のんびりと走っていて心が和む。僕は、国士舘大学には初めて行ったが、その建学の理念や実際の学生の姿の一部には、独自な校風が見られるので興味があったが、実際にキャンパス内に足を入れるとそういう面もなくはないが、今やごく普通の大学だ。
学会大会前日は1年間の学会活動総括などを審議した理事会があった。僕は、それにも参加すべく予定を組んだ。さて、定期総会初日には、自由研究発表と研究総会がもたれ、その後は懇親会、若手研というスケジュールであった。自由研究発表と研究総会との間に、事務総会が幾度かに分けて持たれた。今年は学会役員理事選挙があり、いくらかの役員選出手続きを経る必要があり、それらを準備された事務局は大変だったであろう。なお、会員投票による理事選挙後、今度は新理事会にて選挙が行われ、会長は、二期4年の大役を果たされた伊藤進・明治大学名誉教授(民法、教育法)から、新たに市川須美子・獨協大学教授(教育法、憲法)に交代することになった。行政法・憲法・教育法の兼子仁教授の薫陶を受け、この間重要な足跡を築いてきた教育法学専攻の市川さんが新会長になったことは、この厳しい教育改革期にふさわしい人を学会員は選んだということになるだろう。
初日は、午前中が自由研究発表であった。僕の大学の同じ研究グループの院生のNIさんが報告するので、その分科会に参加して報告を聞いた。こういう武者修行は大事な場だ。彼には、貴重なコメントがいくつか参加された方々から寄せられた。午後の研究総会では、伊藤会長が、第一報告として、会長任期中に考察を深められてきた事柄を中心に、教育法学の研究的現段階を総括され、他の諸法学に包摂されない固有な教育法学の役割を強調されたことが印象深い。伊藤会長は、この学会が教育を受ける権利を教育学、法学の両側面の学問的な立場から総合的学際的な拡大をめざすという固有の社会的責務を担っているということを明言され、その意味で学会として教育基本法改正に反対の意思を表明したことは学問的良心に基づいているものであったと言われたことも大事な指摘であった。初日の研究総会では、植田健男氏(名古屋大学)が第二報告をされ、教育課程研究を教育法学的視点から深める問題提起をしていただいた。 初日の学会懇親会では、大役を終えられた伊藤先生が挨拶をされた。
初日の懇親会後、僕は若手研という院生や若手の研究者が集う研究会に、Nさんという若い友人が報告することもあって、年齢は問わないということだったので、拝聴させていただいた。
最終日二日目は、午前が課題研究に基づく分科会。午後は、事務総会の最後の場があり、全体会で閉じるというスケジュールであった。午前の分科会で、僕は、「社会教育法制改革と教育法学的課題」について報告した。結果はまずまずだったかと思う。僕の分科会では、僕の報告以外に、教員の免許更新制問題、地方行政改革問題についての報告があった、それぞれに興味深い内容だった。ただし、これらは、次年度の教育法学会年報(有斐閣刊行)に掲載されることになる。詳しくここで書くのはやめておこう。
午後の全体会での、司法の現段階を踏まえた憲法学と教育法学の研究的アプローチの差異性と「温度差」について言及された内野正幸氏(中央大)の報告は、賛同する点も多く、刺激的な内容であった。なお、全国学力テストについての批判的検討をされた山崎雄介氏(群馬大)、法教育についての検討を行われた斎藤一久氏(東京学芸大学)報告もそれぞれ有益な知見が多かった。僕は、全体討議の前に、帰路の飛行機時間もあり、退出した。雨模様の中を、帰路につくことになった。歩きながら考えたことは、次のことだった。
今回、教育法学の立場から考えると、司法あるいは憲法学の世界、あるいは政治学の範疇に入る行政学の思考様式において、この間やや違和感を感じるようないくつかの事柄があり、そのことをメモ的な形で内部的な研究会などで報告をすることがこれまであった。しかし、そのたびに、今ひとつ孤立無援の感もなくはなかった。しかし、そうではなかった。そうした思考を深めるような刺激的な報告が今回、伊藤進前会長や内野正幸教授からあった。その意味で、研究的課題が自己の中に蓄積されたこと、そしてこれまで以上に問題意識が鮮明になったことは、素直に良かったと言うべきこと。そう思った。 世の中捨てたものではない。
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