一昨日は授業の合間の昼休み時間に、職場の組合分会集会があった。緊急性の高いふたつの案件は、全国の国立大学(法人)が今、かかえている困難さの一つの典型であり、また氷山の一角を示すものである。
一つは、産休に入る職員がいるので、部局としては、その補充を求めてきたにも関わらず、結局大学事務局本部としてはその手当てをせず、部局責任にまかせたことである。このこと自体大きな問題なのだが、事柄の緊急性の故にこのまま事態を放置できず、部局予算でその手当を行わざるを得なくなったのである。そこで、急遽求人をしたがなかなか勤務条件が合う人が見つからず、ようやくぎりぎりになって昨日7月1日から働ける人を確保したという。こうした経過と事態の厳しい状況報告がなされた。その部署では、これまで、正規職員の2人、非正規職員1人でもこなしきれないような業務の多さがあったところだが、これからは、10月まで3ヶ月、正規1人、非正規2人で対応するのだという。しかも、業務の多様性、専門性、個人情報や重要な情報を取り扱う部門である。故に正規の職員の場合も、他の職場で同様な部門にいても、事柄の内容に習熟するのに1年以上はかかる部門である。問題は、産休のような法的にも承認されている労働者の権利があり、かつそのことで、職場に欠員が一時的に生じた場合、それを代替する制度は、地方公共団体(地方公務員)や国家公務員の場合-経費があるとかないとかの問題ではなく-長年の努力であらかじめ確保されている権利保障の制度と実態がある。あるいは民間企業の一部においても、労使間協定や、就業規則で定められてきたといえる。
ところが、法人化して以降の国立大学は、非国家公務員化したことから、みなし公務員として、労働者の権利やその制度保障が後退している側面が多くなっているように見受けられることだ。とりわけ、経営の効率性、節約を最優先にする経営思考が人的配置に顕著にあらわれ、正規職員の縮減・リストラがぎりぎりまで進められてきた。(それとても、私立大学と比べて多すぎるという非難が浴びせられている)そして、その職員不足を補う形で、多様な非正規職員の増大が見られるようになってきたのである。とりわけ、問題なのは、大学固有の専門的業務の一定部分を非正規職員に委ねていく傾向が増大し、しかもその区分が曖昧な状態のまま、仕事量増大に歯止めがかかっていないことだ。非正規職員の処遇の劣悪さ、ストレスの増大は、官製ワーキングプアを生み出し、他方では、成果主義的勤務評価の導入もあって、正規職員の労働過重の目に見えての増大が認識されるようになり、様々な身体的精神的病状を訴える人もこの間増大している。
もうひとつの案件は、ある部門で、非正規雇用の職員の方の3年契約終了が年度途中になり、穴埋めされなければ、教育業務上深刻な事態に陥る恐れが生じていることだ。この場合、当事者ご本人は労働契約延長を希望されているが、その方の雇用延長に大学本部が極めて厳格な態度で、拒否を示していることだ。大学人事部門は、新たに、別の短期(3年以内)契約職員をあてて対応する意向である。しかし、この仕事も習熟と専門性が必要であり、年度途中では混乱が生じることが予測されるという問題である。非正規職員に正規諸君と同様の専門的仕事をまかせ、しかし契約終了期間が来たら、厳格に雇い止めを行う。これは、全国的に生じている事態であり、有期雇用職員の労働について、その人の人間としての誇りや人権を否定するやりかたである。しかも、文科省および各国立大学法人の経営当事者は、このことに過剰なほどに神経をとがらせて、雇い止めを行ってきている。
http://www.cwac.jp/blog/2009/04/post-c145.html 非正規雇用労働者全国センターのHP。
http://www.zendaikyo.or.jp/ 全国大学高専教職員組合(全大協)のHP
http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kumiai/ H大学教職員組合のHP
要するに、国立大学法人化によって大学上層部は、国立大学法人法の曖昧な面を活用して、みなし公務員的な側面と民間企業経営下の労働者的側面の二重基準を、大学教職員に対して、時と場合によって使い分けてきていることだ。まさしくダブルスタンダードである。第一に、みなし公務員的な対応は、その権利尊重ではなく、権利剥奪的対応である。例えば、今回の人事院勧告での国家公務員に向けられた賃金引き下げ、ボーナス削減など国(財務省、文科省)の政策にひたすら従順に付き従い、非国家公務員としての教職員の労使間交渉にはまったく対応しようとはしないのである。これらの政策の追随は、回り回って民間企業部門の労働者の賃金を引き下げさせる要因になっていくことは過去の歴史が証明している。法人化後の、大学は、こういう点でこそ独立性があるはずだったのにである。(これは正確に言えば虚偽的なレトリックにすぎないことは分かっていたのであるが)
このブログで過去にすでに指摘したが、教員の大半(病院勤務教員は、法定内勤務時間)は、裁量労働制下におかれ、講義や演習、委員会業務などは時間拘束下にあるが、研究はいわば無際限労働であり、文科省統計でも、領域によって多少異なるが年間2700-3000時間ほどの労働時間をこなしており、過重労働である。他方、大学職員は、就業規則によって労働基準法による法定内定量労働時間であるが(非正規の場合は、それぞれに契約時間内)、職員不足から所定外労働時間になりがちであり、とりわけ係長クラスは、(その大半が無給の)大幅な時間外労働をしているのが実態である。
大学ではたらく教職員の処遇-正規か非正規かを問わず職員の権利保障-について、自らの独自な判断をもとうとしない対応(不利益を恐れるのか)には、大学の「理性の府」としての姿勢は見えない。(しかも、このようなひどい扱いを一方でしていながら、理事クラス以上の役職者の処遇は、この間国立大学時代よりも改善されている場合が多いのである!)
第二は、遠山プラン(①国立大学の再編統合②民間的発想の経営手法導入③第三者評価による競争原理の導入(2001)) に示された柱の一つたる民間的経営手法の導入は、法人化以降の国立大学では、あらゆる場面で、追求されている。NPM、PFIといった地方公共団体でこの間もちいられた手法は、国立大学法人でも常套手段化している。競争的大型研究資金や企業との連携等々による外部資金の導入と拡大は至上命令であり、それに努力しない人間は、無能者あるいは不要人材扱いのイヤな空気が-必ずしも大学人の一部とは言えないような勢いで-助長されている。とりわけ、経営協議会の民間企業経営者などの外部理事や文科省(財務省)からは、民間型経営手法の大胆な導入と拡大が迫られ、ひたすら効率性と合理化を求め、経営効率を第一優先順位にするやりかたが推奨されてきたのである。非正規雇用の労働者増大は、このような流れと連動しているのである。
<追加議論>
財政審建議(6月3日)と国大協所見(6月24日)を読み比べる。
上記をさらに加速させようとばかりに、財政制度審議会の「平成22年度予算編成の基本的考え方」(2009年6月3日)が示された。この中で、大学予算や国立大学運営費交付金についても、言及する箇所があり、その内容たるや、相当程度に恣意的な数字や、詭弁に近い論理が展開され、小泉内閣時代と変わらない、新自由主義的な財政政策のオンパレードである。しかも、その理由には品位も、理性も、現状に対する理解も乏しく、恐らくは作業に当たった作成者官僚は、結論にあうように恣意的なデータの採取と加工を行ったのであろう。(ご苦労様である)例えば、国立大学統廃合の結論先にありきの理屈、運営費交付金を減らしても独自資金が増えているとの相当に乱暴な議論(平均値が故に、地方国立大学の窮状には触れない)、授業料値上げの示唆、国際比較での日本の高等教育費の最低限レベルの数字には触れない等々。である。
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia200603/zaiseia200603_00.pdf
さすがに、これには国大協(国立大学協会)も沈黙を続けるわけには行かず、この財政制度審議会報告への真正面からの批判として、「財政制度等審議会建議に対する所見」(2009年6月24日)を公表した。そこでは、上記審議会建議の問題点を6項目に渡って展開している。
http://www.janu.jp/active/txt5/teigen090624.pdf
問題点1 「質」を高める投資の軽視
問題点2 健全な競争、「適切なルール」の軽視
問題点3 競争的資金の偏重、安易な達成度評価の弊害の軽視
問題点4 教育の機会均等の軽視
問題点5 地方との対話の軽視
問題点6 大学システムの日本的特質の軽視
国大協には多様な見解が存在するが、その最大公約数の一致点である。批判が生ぬるい面も多い。しかし、これだけの批判をしているのである。財政制度等審議会(財政審)はどう対応するのであろうか。無視であろうか。それとも何らかの反論を言うのであろうか?
なお、国大協は上記の所見公表以降、「平成22年度国立大学関係予算の確保・充実について(要望)」(6月29日)を文部科学大臣宛に提出している。
http://www.janu.jp/active/txt5/yosan090629.pdf
こうした動きに、公立大学協会や私立大学協会、私立大学連盟はどのように対応するのであろうか。注視したいところである。
お昼時の職場集会の議論から、思わぬ長い展開になってしまった。読みづらい文章を、ここまで読み進めていただいた方々にお礼を申し述べたい。
コメント
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