12月17日 水
朝、ケビン・ウオードに近くの郵便局から小包を出しておく。本と土産だ。MS(多発性硬化症)という難病を抱える彼には、今回は会う機会が(彼の体調で)つくれなかった。大学に出て、Jasに、このことを話す。彼女も事情をよく承知している。そして、彼女に頼んでおいた日本に送る小包2箱分の代金を渡す。前に郵便局から小包を出すとかなりの金額になったことをJasに話したら、大学扱いだと安くなるというからである。韓国でも、列車の切符の入手を大学からすると安くなった。日本は何故そうではないのだろう。社会が大学の研究や教育にそのような便益を提供するには、日本では大学が多すぎるからそうした便益を与えていないからだろうか?
この日も昨日と同様の、卒論、修士論文、博士後期課程研究計画、修士課程研究計画などの査読と修正提案コメント仕事が続いた。2月シンポの双方の手配、院入試や、その他の案件の折衝なども多かった。遠隔地にいながらこの作業を行うのは、時代のせいだろうか。ともかく、これで日が暮れてしまった。
大学は学部学生の授業が終わったのか、静かになってきた。
夕食後疲れて早めにベッドに入って寝てしまったので、深夜に目が覚めて寝つけず、テレビをつけたらいつものようにBBC2ではワールドニュース。これはこれで昼にはない、世界の動きが分かって良いのだ。チャンネル4にすると、珍しく日本のアニメを深夜に流していた。2作品で、一つは「平成狸合戦ぽんぽこ」で、高畑監督作品。日本で子どもたちが小さいときに一緒に観に映画館に行ってつい寝てしまった作品。視聴者に没入させずに笑いをとる。そういう作品なのだが、僕の感性が低いのか、やはり苦手だ。(英国人にこのアニメが通じるのだろうか?)つい、別のアイスホッケー試合を観て、さて寝るかどうしようかと、もう一度チャンネルを変えると、「耳をすませば」(Whisper of the Heart)が始まるところだった。それで、この作品に付き合ってみることにした。日本では名を知っていたが、観たことがなかった。英国の深夜テレビで、初めて全編を観た。1995年のスタジオジブリ・宮崎駿作品の一つ。字幕付きで日本語で流すので助かる。これだけ長く日本語を聞くのは、10月にこちらに来て以来、初めてだ。
http://uk.youtube.com/watch?v=qrlnE8uNwyo
http://uk.youtube.com/watch?v=yfCgFuFcOrY&feature=related
まあ、この作品を芸術性とか、思想性とか、アニメの完成度とか、素人が変にアニメ解釈を重ねるそういう評価ぽいことをしたくはない。
良質の娯楽作品だと思う。実写の作品ができないファンタジーやロマンを画面に持ちながら、東京の多摩に実際にありそうなリアリテイを質の高い画面で描いている。
思春期の淡い夢とあこがれ、希望、恋、友情、家族のありかた、等など、国を超えた共通モデルが内容に込められている。コミックを原作にしているようだが、作中人物は、月島雫(シズク)という少女を軸に、天沢聖司(アマサワセイジ)、原田夕子(ユウコ)、それに雫の家族(姉の汐と両親、父親靖也=図書館司書、母親朝子=社会人院生)そして、地球屋という不思議な骨董店主でバイオリン製作職人でもあるセイジの祖父(西司朗)がからむ。また変な猫と猫の人形バロンもストーリーの展開に重要な役割を果たす。作中では、進学を前にして、人生の先行きを考える年代の中学生たちが主人公だ。恋が芽生える。自分に何ができるのだろうか、不安と希望、このままただ時間を過ごして良いのか・・・
セイジは、バイオリン作りの職人をめざしイタリアに修行に行く、シズクは自分のしたいことに気づき物語を書いてみることにする、この2人の進路に親や祖父、姉の価値観がからむ、一方は姉(汐)などのリアルな日本の現実からの発想、他方は二人の希望を生かしながら課題を課すシズクの父(靖也)とセイジの祖父(西司朗)、そしてセイジの祖父が全体の人間の生き方の希望と質を代表している。そして若い二人の心にたえず現れる互いの相手のシズクとセイジ・・・・・。そうだ、こういう時間を、形が違っても誰もが過ごしたのだ。なぜか懐かしく、ほろ苦く、甘酸っぱいという典型的な気分を誘う作品だ。
この深夜に、どんな英国人がこの作品を見ているのだろうか?ちょっと不思議な感じの時間だった。
コメント
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