12月9日 火
今日は、朝から曇天、小寒い。光が少ないのは、やはりこの地のせいか。
今日は2つのトピック
1つは若い日本人院生のMK君のこと、2つめはリーズの成人教育事業の現況である。
1 MK君のこと
昼過ぎに、日本人院生のMK君と話す。彼は、TESOL(Teachers of English to Speakers of Other Languages第二言語としての英語を教え・学ぶ、教育学英語教授法)コースの院生である。2週間前に、偶然、僕の研究室前の廊下で授業を待っている中国、タイ、アラブ、ポーランドなどの院生グループの中に、日本人院生が2人いることが分かった。その中の一人であった。世の中は狭いもので、話には聞いていたが、彼は、細君がかつて勤務していた兵庫IK学園時代の同僚の息子さんである。君がそのMK君ですかと聞くとそうだというのである。しかも、偶然は重なって、MK君と会ったその日に、細君はMK君の母親と兵庫のIK学園の記念行事で、出合っていて、MK君への言付けを頼まれていたというのである。
その日は、MK君は、僕のことは聞いていたとのことで、話が弾んだ。日本の大学を卒業して、半年語学コースで学んだ後、TESOLの修士コースに入って、修士学位をとり、日本に帰って教師になる計画で学んでいる。一軒の家を、日本人の友人と2人、英国人の2人の4人でシェアして暮らしている。英国人学生二人は日本研究専攻で、相互に英語と日本語を教えあって、良い環境である。
2回目の今日は、クリスマス前後のことを聞いた。彼らは、12月22日にエッセイ提出があって、それが重要な評価対象になるので、それまでは余裕がないが、充実した勉学生活を送っているとのことである。日本人院生にもこういう真面目で誠実な人もいるのである。彼とは、細君と共に、クリスマスの頃に一緒に食事をして、帰国時には、食材や雑貨などを受け取ってもらうことをこの日了承してもらった。
2、リーズの地域成人教育実践のいま
夕刻に、コリン・ソーン(Colin Thorne)さんの家に行き、成人教育実践家でもあるパートナーのカロラインさんからリーズの成人教育実践の現状を聞くことになっていた。
少し早めに、大学を切り上げ、土産を買ったりして、待ち合わせの場所で、コリンの車に拾ってもらった。彼も、カロラインも風邪を引いてしまったとのこと。やはり、このところの寒さで、風邪引きが多いようだ。なんだか無理をしてもらった気もするが、せっかくの機会なのでご好意に甘んじることにした。
コリンの家は、Chapel Allerton地域にあり、前に2度ほど年を変えて訪れたことがあった。次男のT君は、まだ幼かったが、今回会ってみるとシックスフォームカレッジの最後の学年で、ジェレミイの次男と同じく、大学選択の入試のGCSEのAレベルを必要な数をとるために猛勉強中である。歴史学が志望分野で競争が激しいという。カロラインは、T君の勉学最優先の生活リズムだ。孟母三遷の姿は、いずこも変わらない。
リーズの成人教育の話は、近くのコミュニテイセンター的なレストラン・パブで聞くことになった。
入り口の壁には、多くのイベントが案内され、音楽、ダンス、映画、コメデイパフォーマンスなどが、この場所でも行われるという。
日本の大相撲が、ややカリカチュア的に紹介されているポスター。リーズ市アートカレッジの学生の作品である。
カロラインは、風邪を引いているのにおつきあいしていただいた。彼女は多くの話を提供してくれた。多謝である。色々な資料もいただいた。同時に、僕から日本の最近の社会教育、大学、経済、若者事情や僕の仕事、研究、家族のことが聞けてすごく良かったと言ってくれた。コリンは横から色々なアドバイスや補足をしてくれた。
僕は、この日は、野菜中心の前菜とパスタ、それに地元のビールが夕食。美味であった。デザートは、バターブレッドパイとコーヒー。彼らもそれぞれに注文して、食事しながらの話でもあった。
<インタビューした内容の概要>
リーズの成人教育は、この10-20年の政府の冷遇・合理化政策によって、自治体と大学、労働組合、地域のボランタリーなグループで支えてきた労働者教育と地域成人教育が融合したかつての力強い姿は、残念ながらその基盤が失われてきた。これは、リーズに限らず他の地域も同様であるが、有力な拠点だったこの地域の成人教育としては極めて不幸なことだ。
無論地域の成人教育実践は、完全に消滅したわけではなく、地域の成人教育は行われているし、依然として積極的な役割を担っている。ただし、自治体の財政難と政策転換によって財政支援、施設や職員配置は激減し、限られた事業になってきている。
組合の力は、かつての力はなく、厳しい。大学は、この間の高等教育政策転換によって、全英的に大学成人教育部門が合理化対象となり、消滅したり統廃合したり人材削減されたりして、厳しい局面にある。
リーズ大学は、地域から見ていて、非常に力強い強力な成人教育・生涯学習部局を持っていた。しかし、今は、大学が国際的役割、研究重視、大学院院生学位付与、などに力を入れていて、大学成人教育部門が、いかなる戦略をとるのか大きな転換期にさしかかり、苦渋しているように見える。リーズメトロポリタン大学やヨーク大学の方がこの点では、地域性を保持してきている。リーズ大学は、LLI(Lifelong Learning Institute)とLLC(Lifelong Learning Centre)が、継続教育学部の再編統合(教育学部と)の際に、分離されてしまったことが大きい。LLIは研究と大学院教育で成果を出すことが求められ、LLCは事業実施のみに分離されてしまった。しかし、LLCは、いまや合理化廃止の対象とされようとしている。
LLCのリンゼイ・フレーザー(Lindsay Fraser)やMJ(継続教育学部のときのライブラリアン、僕は当時から大きなお世話になった。)が頑張ってきたが、それがどうなるのか心配だ。実践と研究が切り離されていくのは、痛ましいことだ。リンゼイはケビン(Kevin Ward)と共著(Education from Everyday Life,1988,NIACE)を出したり、今もコミュニテイと大学をつなぐ重要な実践をリードしている。下記のセミナーは、今年の5月に行われたものだが、その一つの重要な研究事例だ。
http://www.education.leeds.ac.uk/research/lifelong/seminar_details.php?seminar=182
リーズの成人教育は、実施数は減少したが多くのコースを提供している。資格やcreditとは関係ないコースは、ミーンズテスト(所得審査)によって、失業や貧困状態にあると認定されれば無料のコースが提供される。コンピュータ、基礎的な語学コース、基礎技能付与コース、ダンス、市民教育、書き方コース、など多くの市民が利用している。これらは、趣味や関心のニーズに応えるとともに、自信付与・回復、視野の拡大、友人関係の広がりに貢献している。ただし、社会目的的な、活発な地域教育、労働教育は、ほとんどできなくなった。
コリンとカロラインに、リーズの近隣地域ではどうかと聞いたが、ミリアムの紹介した、カッスルフォードの女性学習運動も、かつては盛んだったと聞くが、いまはどうか分からないという。ウエークフィールドやブラッドフォード、ミドルズバラの事業も同様な状況だという。ユニバーシテイ・セッツルメントの伝統は、やや歴史的用語になってきてしまっているのは痛ましい感じだという。
Widening Participationの政策の関連で基礎学位(Foundation Degree)の位置づけが大きなアジェンダになっている。職業資格と学歴をいかにリンクするか、その資格の順次性レベルの梯子をどのように上がっていくのを助けるか、しかもその資格を得るには何らかの仕事についていなければならないという、いくつかの複雑なデイレンマを学習主体も成人教育側も抱えている。残念ながら、こうしたことに大学はいまや余り関心を有していない。ここには、コリンもカロラインも個人的意見と断りながらであるが、地域の成人教育家からすると大学への期待が高いだけに今の現状にはやや失望というか、ペシミステイックな感情が働くという。
コリンは, 僕に対して、Yoichiも早く定年を迎えて自分の好きなことをしたほうがよっぽど精神的に自由で楽だからもうがんばるのはやめたらなどと、軽口をたたいて、カロラインにややたしなめられてはいたが、これは現状への大学人への皮肉な連帯感情だろう。
カロラインは、ジョーミスキンの南ヨークシャーのWEAの活動を含めて、もう少し実践的展望と希望はあること、リーズの再生事業についても、先日のイアン・グリアとの話で出てきた、Camberwell Projectや、LEGI(Local Enterprise Growth Initiative)のことも話題になって、絶望はしていない、Yoichiの楽天性とコリンの悲観主義とは、同じ現実を見ている二つの見方で、理解しているという。これで、やや話の落ちになった。
この日は、コリンとカロラインの家に戻り、資料を受け取って、ミント・テイをいただいてから、タクシーを呼んでもらって帰った。貴重な時間と意見・情報をいただいて多謝である。彼らは、クリスマス前から、フランス・スイス方面に行き、スキーを楽しむという。仕事と、楽しみの両方の切り替えは彼らもはっきりしていて気持ちが良い。再会を約束しての楽しい時間だった。
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