10月も後半、日々新たなことが舞い込む。
今週前半には、授業や雑務の合間に、エラスムス・ムンドウス(ERASUMUS MUNDUS,2009-2013)の説明会の案内があり、参加。駐日欧州委員会代表部のマリ・エレーヌ・ヴァレイユ氏他による説明会である。
エラスムス・ムンドウス(EM)とは、EU域外の日本側からすれば、要するに、ヨーロッパ大学院留学&教員派遣・受入プログラムのことである。
日欧の高等教育国際化戦略には、今のところは、そのスケールや質において、大きな隔たりがあることは否めない。日本側の国際化重点としては、例えば、H大学では、単位互換、ダブル・デイグリー、英語による授業という、まだ部分的な対応にとどまり、日本からの発信や連携におけるリーダーシップやプロモーションの意気込みはまだ弱い。他方では、EUサイドからするとEMは、リスボン戦略、ボローニャ・プロセスを背景として、「欧州の高等教育」の発展、学生のキャリアの将来性向上、学術協力による異文化理解の促進などを目的とする。はっきり言えば、国境を越えての国際的な高等教育枠組みにおいて、米国に対抗し、もしくは優位に立っての「欧州の高等教育」を国際的スタンダードにしようとする戦略といえる。
この場合、EU内のリーダーシップがそうであるように、仏、独、その他欧州大陸諸国が中心となってプログラムを推進しているといえる。英語による授業を用いて言語の障壁を少なくさせながら、多様なプログラムが提供される。学位(修士、博士)、デイプロマ、研究者の協同研究や招聘講義、などが用意され、国境を越えての大学間のコンソーシアム方式も多い。EU域内は無論のこと、この説明会のようにEU域外の連携プログラムも多様に用意される訳である。(なお、英国は英語使用国家であることの優位性の上に立って、ボローニャプロセスやEMには比較的消極的であると言われている。この背景には、努力せずとも、英語の強みから、外国から多くの留学生が来ることや、英国の学位取得の年限の短さ、大学の教育・研究の質、キャンパス環境、学寮の充実などが影響していると言われる。)
EM(エラスムス・ムンドウス)は、2004年ー08年を基礎段階として、09年に終了するボローニャ・プロセスを引き継ぐことになる。具体的には、アクション1:ジョイント・プログラム、アクション:2パートナーシップ、アクション3:ヨーロッパの高等教育のプロモーション、の三つを主な特徴とする。EMは、日本からすると、奨学金、学位、研究交流などについてみても、財政負担は、EU側が主に負担することになり、それぞれの分野でEUで学びたいという大学院生や研究を進めたい教員には、おいしい話が多いことになる。
しかし、実際にやってみたらどうなるのかについては、この日の、日本側の受け入れ・送り出しの事例として阪大でのこの間の実際の運用事例報告が同大学院文学研究科のT教授からなされた。報告で、強調されていたのは、実際上の実務遂行にあたっての未整備な日本の大学支援体制の苦労や、教員の一部の負担に依存するといった段階が出発点であったということである。しかし、現在は、そのレベルを脱して、大学全体の位置づけに組み替えて、積極的な推進体制に移行しつつある、H大でもこのことを考慮して推進されることが肝要であると強調されていた。
翻って考えて見れば、EMは欧州戦略の上に立つが、日本の、東アジア圏内(工業国家としては、日本と韓国が当面のパートナー国であろう。EUサイドでは、中国とインドは、工業化諸国にくくられていて、日本や韓国とは別扱いである。)での国境を越えてのこうしたプログラム戦略は存在するのであろうか。寡聞にして、僕はまだそのような大きな枠組みを聞いたことがない。
お金が出るから欧州の諸大学に行こうというだけでは、いかにも非対称的であり、対等とは言えない。日本が、近代化のプロセスでたどった方式をまた繰り返すのか?EMの良さを評価しつつ、日本あるいは東アジア固有の、戦略的見通しをもつことが必要なのだろう。それは、トップマネージャーが考えることなのかも知れないが、部局での先行する事例も必要であろう。
しかしながら足下を見れば、H大学では、昨年海外からの受け入れ学生・院生が約1000名、送り出しは170名前後であった。受け入れと送り出しの数字には、著しいギャップがある。また、受け入れは圧倒的にアジア諸国が多く、送り出しは欧米諸国が多い。このような状況をどう考えるのか。まだまだ、言語の障壁、支援体制、情報の重層的発信姿勢が遅れていると言えるのかも知れない。
携帯写真なので画像の質が悪いが、研究室から見える樹木の葉もそろそろ紅葉の最後になってきている。来月末には、これらの樹木の葉は大半が落葉することになる。
10月23日の今日は、午前に上海市訪日団の受け入れがあった。副市長のShen Xiao-mingさんはじめ、教育委員会、衛生局、国際交流所の上級スタッフなど8名の参加者である。御一行は、先週米国視察を終えて、日本に立ち寄ったのだ。彼らの目的は教育事情視察、とくに教員養成問題に関心が強いようであった。聞けば、訪問日程は、随分とタイトなようだ。午前にH大本部で副学長への表敬訪問を終えて、我が部局では約40分ほど応答して(T部局長の歓迎挨拶、Shen副市長の返礼挨拶、僕も日本の教員養成のポイントを短く説明した。)その後、同僚や留学生の案内によって、市内の小学校訪問に赴いていかれた。
上海チームの、我々へのお土産は、陶笛(ocarina)であった。部局長がお渡ししたのは、H大グッズである。さて、中国のオカリナは、いかなる音色を出すものなのか、家で試してみよう。
今日は、夕刻は全大教(全国大学・高専教職員組合)からの派遣執行委員とH大執行委員との協議懇談がある。僕は途中で抜けて、その後は、「こどけん」の10月例会だ。
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