先週末は、教育法学会(明治大学)への参加で東京だった。これから三週連続の週末出張になる。
金曜日の理事会に続き、土、日は総会と分科会、公開シンポジウムなどであった。
5月29日土曜の午前は、自由研究発表であった。3室が設けられ、10本の報告があった。僕は、B分科会に出て、4本の報告を聞いた。報告者は旧知の方々であった。報告テーマは、「ノルウエー教育法」、「旧教基法2条の現代的意義」、「教育改革と教師アイデンテイテイの危機」、などであり、質疑時間が限られたが、僕もいくつか質問もした。内容の詳細は省いておこう。
午後の事務総会に続く、研究総会では、「教育法学40年の総括-三世代から」と題して、土屋基規(神戸大学名誉教授)「日本教育法学会の40年-教育法学研究の総括に向けて」、今野健一(山形大学)「教育人権論の展開と教育法学の役割」、高橋哲(中央学院大学)「教育法学における教育学的側面の展開と課題」の3名の報告がなされた。
10年刻みで考えれば4世代の4本の報告があっても良かったかと思われたが、時間の制約や登壇者の選定上の制約もあったのだろう。
土屋報告は、40年の総括にふさわしい学会の研究活動、刊行物、年報の動向に即しての重厚なものであった。およそ10の領域が学会として研究されてきたこと、その到達点を簡潔に整理されていた。今野報告は、憲法学とくに教育人権論の観点から教育法学上の軌跡、論争点を明快に整理されていた。この間の憲法学と教育法学の理論的実践的齟齬の問題を解く上で示唆的な報告であった。高橋報告は、若手の立場から、また教育学の観点から教育法学上の論争点をこれまた刺激的に総括するものであった。報告後の、全体討論では、提起された論点を引き取っての質疑も闊達になされた。僕にとっては、昨年職場で継続的になされた「教育と法研究会」の議論とも重なり、いささか理論的な課題認識も刺激され、有益な内容であった。
上は、土屋報告。
夕刻の懇親会では、幾人かの歴代の会長(兼子仁、永井憲一、堀尾輝久、伊藤進の各氏)の40年の回想は、それぞれに含蓄があるものであった。韓国の大韓教育法学会会長の高鐫氏の挨拶もあった。立食テーブルの場では、札幌市の子どもの権利条例制定に続く、広島市の動向について幾人かの方から情報を得られたこと、旧友の方との交流、社会教育・環境教育関連の方の法学関連の方への紹介、今年の韓国調査への情報共有など、ソーシャルな交流があったことは、僕にとっても良かった。
第二日は、分科会が午前、公開シンポジウムが午後であった。
午前の分科会では、「教育裁判と教育法学」に出た。
「「教育の自主性」をめぐる教育裁判の展開と課題」(菅原真・名古屋市立大学)、「条件整備的教育裁判-学校事故裁判を中心に」(織田博子・駿河台大学)、「子どもの人権裁判の展開と課題」(吉岡直子・西南学院大学)の3本の報告がなされた。菅原報告は、前日の研究総会での議論とリンクするものでもあり、憲法学的視点からの判例分析によって教育法学との架橋の新たな可能性を示唆する内容でもあった。織田報告、吉岡報告は、教育裁判での具体的な判例をとりあげ、その到達点と課題を示すものでもあり、この間のいくらかの教育裁判事例に関心を抱いてきたものにとっても、有用な報告であった。学生時代に、教育判例をいくらか学んだこと、その後のやや外野的立ち位置での関心、そして現在の状況などを考えながら、報告を聞いた。質問もなくはなかったが、専門的な事項も多く、素人的なことを尋ねるようでもあり、ここは控えた。
昼食時に、N先生や僕の研究グループ院生のNIさんと一緒に出かけて、いくらか研究上の感想を出し合えたことは良かった。
午後は、公開シンポジウム「政権交代と教育法」であった。4本の報告がなされた。登壇者は、市川須美子(獨協大学)、中嶋哲彦(名大)、舟木正文(大東文化大学)、青砥恭(全国教法研)の各氏であった。この数日、ニュースでは、社民党の連立政権離脱が報じられていたが、この日のシンポでは、民主党政権の教育法に関するスタンスは、いかなる性格や特徴をもつものなのか、具体的な国会提出法案や、マニフェスト、政策動向等を踏まえての総合的、立体的な検討をしようというものであった。
司会は、内野正幸(中央大学)、世取山洋介(新潟大学)の両氏であった。内野氏は憲法学・法学の視点からコメントをされ、世取山氏は、前日国連の子ども権利委員会参加傍聴(スイス・ジュネーブ)から戻ったところであり、そうした視点も加味して進行を進めておられた。
青砥氏は、高校間の格差が、極めて具体的な経済的社会的な構造格差の中で可視的になっており、この問題への対処の方策をいかにおこなうかを提起されていた。
論点は多岐にわたり、会場からの質疑も多かった。民主党の日本国教育法案の性格、教育諸法案の特徴、子ども手当給付の性格や高校授業料の無償化法案の成果と限界、地方教育行政の展開の方向、地方教育財政の国家的政策、などが具体的な論議の俎上に上り、自公政権時代との継承と断絶の内容の吟味、新自由主義と新国家主義と民主党政権の関係、福祉国家的観点の度合いなど、政策の枠組みの議論もなされた。僕も最近のH道の事例を含めて、政権交代後の具体的な教育法的課題を述べた。今後の現実の事態の展開とにらみながら、論点をひきとることが重要と思われた。
シンポ終了後、空港に向かう。モノレールでは、Kさんと一緒になった。フライトの関係で、この日も帰宅は遅い時間となった。
週明けの5月31日(月)は、講義、と雑務、長時間の組合執行委員会があり、帰宅は11時。月が代わっての6月1日(火)は、2つの講義や部局委員会会議があり、遅れている原稿書きもいささかの弁明も許されず、思わずため息がでる。心身の余裕のない日々が相変わらず続いているなと思うが、これもまた現実だ。
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