時間が少し過ぎると、またもや現場の人権感覚が後退し、保守の動きが復活してくる。
講読紙の一つはA新聞だが、大震災が起きて、数週間は、第一線の現場記者のリアリテイが重みを増し、読者の声欄が真実をつく内容を出してきて、ようやく少しはジャーナリズムのセンスが戻ってきたかと思っていた。
しかし、この数日は、それに冷水を浴びせるようなまたもやぞろ、保守的中央政治の目線が復活してきた。
一昨日のニュース解説記事の津波と原発事故「想定外」記事しかり、社説の復興への「自助努力」の強調しかりだ。この一ヶ月半の報道はなんだったのかと思わせる、またもやの政府施策提灯記事である。逆コース攻勢である。
報道されるところによれば、民主党の「復興ビジョンチーム」の素案(4月28日)も、政府任命の「復興構想会議」と同様に、「構造改革」路線が目白押しのようだ。地域主権改革、新成長戦略、包括的経済連携、法人税減税、消費税増税、TPP推進、農業再生特区、基礎自治体の合併・強化、等々。
被災地の人々の視点からの発想とは異なる、なにやら利権がらみの上から目線の発想と計画が「復興」の名の下に、これみよがしに出てくる。
今日は、憲法記念日である。
そこで、二つのことを考えた。
一つは、被災地の人々にこそ、主権者としての人権と、憲法の権利が実現されるべきであるという思いである。
憲法には、基本的人権の代表的なカタログが並ぶ。幸福追求権、平和的で文化的な生存の権利、真実を知る権利、教育を受ける権利、人間的な労働の権利、等々
これらの人権をただの飾りにして良いはずがない。どこで生まれ、どこで暮らそうとも、人間としての尊厳を持って生きられることを憲法はうたっていたのではないだろうか。しかも、そのような権利は、お情けや慈恵ではない。ひとにぎりの「専門家」や、コンサルタント、企業資本の人々、政治家のさじ加減によって左右されてはならないはずだ。
民主党の「復興ビジョン会議」や政府の「復興構想会議」が、間違っているのはこの最初のスタンスの勘違いである。
被災者の目線と自律的な考えを基本にして、復興策を練り上げ、国や社会は、それを支援し、施策を実現していくことが肝心だと僕は考える。
二つ目は、憲法記念日のもうひとつの気になるトピックである。
それは、昨日(5月2日)の夕刊のビンラデイン「死亡」(殺害)報道だ。
新聞を手にして違和感が走った。すぐに記事を読む気になれなかった。しばらくして、読むと、号外並みの大きさの文字の中には、アメリカ総支局長名の記事があった。内容は、殆ど、アメリカ「大本営」発表の記事コピーのような解説だった。うわずった国際テロ犯殺害への、10年の努力が実っての「勝利」記事の調子である。
今朝の朝刊は、その主張トーンは変わっていない。しかし、さすがに、気が引けるのか国際法学者の解説を入れて、その「殺害」の正統性に少しだけ批判的コメントを加える姿勢を示した。
だが、どう考えても、僕の違和感は消えない。
全国紙を代表してきたとされる新聞の昨夕の報道のトーンは、およそクオリテイペーパーのジャーナリズム姿勢とは思えない、思考停止記事だった。
法的な裏付けもなく、CIA軍事部門などの実行部隊による殺害と、イスラム勢力の聖地化を怖れての即日の「水葬」(要するに、死体を海に捨てたのだ)にいかなる正当性があるというのだろう。
無論、テロリズムは許されない。無差別の無辜の市民の犠牲を強いる爆破テロなどが許されるものではない。
しかしだ、眼には眼というのか、憎しみをもって、これまた何の罪もない人々を殺害し、外国軍(多国籍軍)が、軍事的占領を続けたり、テロリスト撲滅を理由に、多くの人を拘束し、都市や農村を破壊していく。そのどこに正当性があるのだろう。
そして、今回の場合は、1年前から,場所を特定し、実行を準備してきたのだ。有無を言わさず、周到に準備して殺害するということが、なぜにかくも正当とされるのか。しかも、昨日夕刊の新聞記事の見出しは、ビンラデイン殺害でなく、ビンラデイン「死亡」という見出しであった。「殺害」と「死亡」にはおおきな差異がある。
憲法記念日にこのようなことを考えるのはつらい。
法的正義や公平性、人権の擁護とは何かと。疑わしき「犯人」を国家予算を相当に使って、暗殺するのが唯一の正義なのかと。
国際法上の法的手続き(パキスタン政府の支持を受けていなければ違法であるし、たとえあとでつじつまあわせをしても真実はすぐに分かる)の問題性はどうなるのか。
また「容疑者」であるとしても、裁判を受ける権利や、真実解明の手続きはどうなるのか。最初から、「容疑者」を抹殺する「国家暴力」行使というやりかたは、およそ、21世紀の現代にふさわしい方法とは言えない。理性的とは思えない。
オバマ大統領のコメントも、醜悪だった。
僕の感じたイヤな感覚は、間違っているのだろうか?
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