日暮れが早いように、11月もあっという間に過ぎていく。
英国から11月8日夜遅くに、帰国後、疲れやジェットラグもあったが、翌日9日から、当然ながら、講義や演習、委員会、校務仕事が続き、休めない。
入試関連仕事や、パレステイナからの研究者のRさんとの対応もあった。
11日は、その限界か。風邪を引いた。ついにダウン。一日寝たり起きたりして過ごした。
機内で読み継いできた2作品。サラパレツキー『沈黙の時代に書くということ-ポスト9.11を生きる作家の選択』(早川書房、2010)、バート・ゲルマン『策謀家-チェイニー』(朝日新聞社、2010)をうつらうつらしながらこの日は読んだ。
ブッシュ、チェイニー時代をどう総括するかは、オバマ政権の批判的総括の視点にもなる。
それにしても、策謀家、マキャベリストのチェイニーの果たした歴史的悪弊は大きい。ブッシュ・ジュニアを動かしただけでなく、9.11以降の政治システムの極端な軍事的政治的排外主義、新自由主義的政治経済へ大きく舵切らせたからである。
具体的事例の一つは、サラパレツキーの本に詳しい。同氏の『沈黙の時代に書くということ-ポスト9.11を生きる作家の選択』(早川書房、2010,原題:SARA PARETSKY ;WRINTING IN AN AGE OF SILENCE)という書物がある。
僕は、かなり前からパレツキーのファンで、V.I.ウオーショスキーなる主人公の性格と言動のさわやかさと公正性に着目していたのだが、この作家の民族的背景やミステリー作家になっていくプロセスは、この書物ではじめて知って我が意を得た思いであった。
ところで、同書の第5章 「真実と嘘とダクトテープ」の2に「図書館と市民的自由」という節がある。それを読むと、9.11以降の通称「愛国者法」によってかくも市民の自由がFBIやNSAによって侵されてきているとは、驚きであった。
「・・・・・・愛国者法のおかげで、政府は図書館に対して、貸し出し記録や、インターネット使用記録や、あらゆる媒体に保存されている情報を提出するよう強制できる。召喚状が送達された場合、図書館も召喚状の存在を、あるいは、それによって記録が提出されたという事実を、口外してはならないことになっている。図書館利用者は自分たちの記録がFBIに提出されたことも、自分たちがFBIの捜査対象にされていることも、知らせてもらえない。それに加えて、召喚状を発行するにあたって、政府は”相当な理由”を示す必要がない。代わりに、法執行機関の捜査官は、テロもしくは諜報活動に関係した現在継続中の捜査にその記録が必要になる可能性あり、と主張するだけでいい。国土安全保障省を誕生させた法律は、記録の押収や盗聴を実施する政府の権限に対するチェック機能まで消滅させてしまった。
図書館リサーチセンターが2002年にイリノイ大学で行った調査によると愛国者法が制定されて以来、政府は全国の図書館のすくなくとも11パーセント-じっさいはもっと多くて、たぶん30パーセントぐらいーから貸し出しカードとインターネット使用の記録を押収しているという。どの図書館がそこに含まれているかはわからない。自分のところの図書館が「記録の捜索を受けたことを司書が口外すれば、逮捕と投獄が待っているからだ。」
出版界、メデイア、図書館の市場化の弊害についてもサラ・パレツキーの同書は多くの頁を割いているが、9.11以降の言論・思想の自由がここまで侵されてきているとは知らなかった。最近のアリゾナ州の新移民法の制定、イスラム教信者への迫害など、アメリカは異質な者やマイノリテイへの憎悪をあおる空気が充満している。しかし、問題は、ブッシュ政権がもたらした深刻な悪政が、どういうわけか一定の民衆(ポピュリズム政治の源泉にもなるが)の「支持」を得ながら、広がっていることである。アメリカの民主主義の土台は、危機を迎えている。
中国やロシアの政治的異論への封殺は、多くに知られるものであるが、米国のそれは、案外とこの国では知られていない。「自由な国」アメリカは、無前提には存在しない。むしろ自由を圧殺する動きが、いや増している事実をしっかりと見つめていることこそが、この島国の偏ったメデイアや操作された「世論」を読み解く鍵である。
12日は教授会。例によって、いろいろな案件があった。
13-14日は、合同教育研究集会があり、14日は、北海道地区の組合単組代表者会議もあった。
今年のプログラムは2日間日程。初日午前はテーマ別分科会、3つのうち、僕は「生きづらさに寄り添う」と題したものに出た。
午後からは、分科会、僕は共同研究者であり報告もした。第19分科会「国民のための大学」分科会がそれだ。13-14日の2日間に6本の報告があった。
夕刻からは、文化の夕べと記念講演。前者は、高校演劇の「雨降り小僧」(北斗高校)、後者は、田中孝彦さんの「地域から、子ども理解と学習観を深めあう新しい共同関係を探る」であった。
田中講演の後に氏を囲む会があり、参加した。田中さんはご夫人もご一緒で、実行委員会の中核の方々の講演の感想もあって、印象的な懇親会であった。
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