3月20日 (土)
この日から、長野県阿智村での現代生涯学習研究セミナーへ出るのだが、出発地の名古屋は暖かな日だ。
名鉄バスセンターで、Sさんと待ち合わせる。車中、今年共同で刊行する出版物のことを話していく。車窓に映る景色は、中央道の山間に入っていくと、少しだけ季節時間を逆行するような感じである。それでも、春模様の雰囲気だ。
現代生涯学習研究セミナーは、今年で22回目を迎える。幾度かは、長野県望月町(現在佐久市に合併)で持たれたが、その他は阿智村で開催されてきた。故小川利夫名大教授が提唱し、研究者、実践者、行政、学校、市民の自由な参加を求めたセミナーである。学会とも、民間団体の社会教育推進全国協議会が主催する全国集会とも異なる、運動とアカデミックがクロスして、互いに市民として自由に語り合う、現代生涯学習自由大学ともいうべき性格である。
呼びかけ人は、関東、中部、関西を中心に、当初多くいた。しかし、22年間の間では、中核を担う面々は大きくは変わらないが、その都度の参加者層は、時間の推移と共に、顔ぶれも大きく変わってきた。最近は、関西、関東からの参加層は減ってきたのが現実である。このセミナーには、僕は、最初の大学に勤めた頃からの参加であり、創設時以来、在外研究期間などを除けば、ほぼ全回参加である。職場を、愛知から埼玉に移し、さらに現在は北海道に転出したので、愛知や埼玉時とは異なって、参加するには毎回大きな決意がいるのも事実である。一つは、手弁当での参加として位置づけてきたこと。毎回、いささかの経費がいる。もう一つは、日程調整である。今回も、北海道教育学会大会と一部重なり、直前まで、調整に苦しんだ。
さて、セミナーも、リーダー役の小川利夫氏が逝去されてから、共同代表と世話人、事務局という体制になってきた。共同代表は、水谷正(元中野中央公民館長、現在三重県公民館連絡協議会会長)さん、上杉孝實さん(京都大学名誉教授、畿央大学教授)、新海英行さん(名大名誉教授、愛知瑞穂短大学長)の三人がにない、事務局は名古屋大学社会教育研究室が担ってきた。近年は、中山弘之さん(現在、愛知の短大勤務)が献身的に事務局長役を果たされてきた。世話人は、参加者がやや少なくなってきてからは固定せず、年に2回程度必要に応じて、集まって企画や方向を決めてきたといえる。僕は、世話人の末席にいる。セミナーの記録集は、毎年刊行され、その実質的な編集長は、大阪音大の大前哲彦さんがこの間献身的に担われてきた。
今年のプログラムは下記ブログにある。
http://ameblo.jp/ll-seminar/
転記すれば、以下である。
【1日目/3月20日(土)】
14時30分~ 開会のあいさつ
15時~ 「村づくりと社会教育 ~長野県阿智村と栄村に学ぶ~」
よく知られているように、長野県阿智村と栄村では、社会教育実践のぶ厚い蓄積の上で、村づくりが取り組まれています。その実践の中心を担ってこられた岡庭一雄さんと高橋彦芳さんに報告していただくとともに、長野全体の社会教育を見渡すことのできる研究者の島田修一さんにコーディネートしていただくことで、地域自治のために社会教育ができることについて、明らかにしていきます。
報告者:岡庭 一雄(長野県阿智村村長)
高橋 彦芳(前長野県栄村村長)
コーディネーター:島田 修一
(社会教育・生涯学習研究所)
19時~ 懇親会
【2日目/3月21日(日)】
松本市では、「松本市にふさわしい地域づくりの仕組み」として、各地区に「緩やかな協議体」を設置して都市内分権を進めるという議論が行われています。各地区においてその中心を担うのが公民館、地区福祉ひろば、支所です。公民館実践の歴史的な蓄積のうえで新たな地域づくりに取り組もうとしている松本市からの報告をもとに、これからの課題と可能性について議論します。
9時30分~11時30分 実践報告「長野県松本市の自治体内分権と社会教育」
報告者:矢久保 学(松本市役所)
12時30分~14時30分 問題提起「松本市の地域づくりの現状と課題」
報告者:手塚 英男(松本市)
14時30分 閉会のあいさつ:水谷 正(セミナー呼びかけ人代表/三重県公民館連絡協議会)
昼神温泉を流れる阿智川は春の陽ざしのなかで水面を輝かせている。
家族連れが、陽気に誘われて河原に繰り出している。
水谷さんの挨拶。
岡庭一雄・阿智村村長の報告。4期目に入り、発言に実績の裏打ちと哲学が加わってきた。今や、阿智村発で、自治体行政の在り方に多くの積極的な発言をされてきている。石田雄やハーバート・ノーマンを座右の書として、地域づくりや社会教育を考え、村政に問題提起をするような村長は、全国にどれほどにいるのだろうか?
80+α歳で、栄村-阿智間、片道240キロメートルの距離を自ら運転して往復される体力・気力をお持ちである。これまでの栄村村政を、自らのライフヒストリーと重ねながら、縦横にお話し下さった。「小さくても輝く村」づくりの先頭に立ってこられた気概と構想の数々は、胸を打つ。
コメントをするのは島田修一さん。
阿智村公民館長さんも議論に加わった話された。
重要な論点も多かったが、討議された内容は、ここでは省略する。
夕刻は、懇親会。今年は、村営ホテル鶴巻荘が改修中のため、森林組合の昼神荘が宿舎。温泉もゆったりするものだった。
夕食には、鯉の甘辛煮や、五平餅、天竜川の養殖サーモンなど、地の素材などを多く使っている。
高橋彦芳栄村元村長のスピーチに上杉さんが耳を傾けておられる。
翌日は、松本の地域づくりと社会教育、福祉の関係を、現在のキーパーソンである政策課の矢久保学さんと松本の地域福祉を取り入れての社会教育らしさをかたちづくる原動力となった手塚英男さんに徹底的に聞くという趣旨である。
手塚さんもすっかり髪が白くなられた。
矢久保さんも縦横に現在の状況を語られた。
松本の地域づくりの現段階は、<支所・出張所>と<公民館>と<地区福祉ひろば>の3者の横割りの連携による地域創造の実験である。それは、同時に公益、共益、自助努力・私益の仕分けを明確にして、その間を信頼と学習でつないでいくことになる。それは、地域構成力というべき地方自治の課題なのかも知れない。
討議は、午前、午後と続き、2時半には終了した。
この日は、全国的に天候は前日と打って変わって大荒れとなった。阿智の山間にはあられが降った。
僕は、帰路のバスを急いだ。この日の夜は、中部空港の近くのホテルである。静岡に行くSさんと別れて、僕はいくつかの要件をすませてから、ホテルに向かった。
翌日は、学会最終日の北海道教育学会理事会に出るべく朝一番の飛行機である。飛ぶか一抹の不安はあったが、これは運を天に任す他はない。
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