日本という国に住み、呼吸していることが時に、幸福と思えたり、時に苦痛であったりする。
前者は、かろうじて平和憲法を維持して(朝鮮戦争時の米軍出撃、さらには日米安保による沖縄や本土の米軍基地からのベトナム戦争等での出撃、日本からは、イラク自衛隊派兵という痛恨事を例外としたくはないが)きた歴史から考えることである。少なくとも、戦争をしかけたりして他国の人々に危害を加えてこなかったことは、誇って良いことである。また、山野と海に囲まれ、自然に恵まれた暮らしから来る生活感慨だ。
後者は、日本という国に住むことでの息苦しさや情けなさから来るものである。主には、政治経済の質の問題が多い。政治家の質の悪さは、それらの人々を選ぶ、国民の見識と民主主義の水準に依存すると言ってしまうと情けなくなるが、事実はそうではある。
しかし、さらには近年のメデイアの劣化(資本の統制と支配)からくる要素も見逃せない。人々の無力感や、真実から遠ざけられての虚偽意識の醸成などは、メデイアの役割が大きい。排除と競争、国民意識操作の高まりから来る、出口無し、方向性のなさなど、時代の閉塞感はつのるばかりである。
以下は、最近の世の中の動きの二つについての素人的雑感である。
1,西アジア・中東の動き
日本人一般は、インドから西については、日常意識からは遠くなる。とくに、西アジア(欧州的には中近東)については、アフリカ同様に知識や実感が乏しい。僕自身、昨年パレステイナからの研究者を迎えて親しく話すまでは、パレステイナのことは無論、西アジア一般についての理解は、濃淡まちまちのパッチワーク的な知識の連鎖に過ぎなかった。多分、日本人の中では、専門家に次いで、西アジアについての理解は、日本の企業派遣の人々の方が、実感をもって今起きている事態をとらえているのかも知れない。
ところで、新たな西アジア民主化の動向は、南米で起きた一連の各国社会の民主化動向と同様に、世界における米国一極支配の崩壊の前触れかも知れない。近視眼的に見ると、各国内の権力のヘゲモニー争いは、それぞれの国内事情のように写るが、それだけではなさそうだ。そうした意味で、これらの国々を広く深く見つめることが重要になっている。アジアカップのサッカー中継でのカタール見聞などの浅薄な理解に止まってはならないのだ。(それはそれで興味深かったが)
さて、チュニジアの動き(ピタッと報道されなくなったが、どうしたのだろう)に続いて、エジプトの動向が連日報道されている。ヨルダンにも飛び火するかも知れないが、情勢は混沌としている。西アジア・中東諸国の独裁長期政権の膿がたまっていて、その民主化を求める民衆の声が高まっているのだが、イスラエルに対抗するような反政府ムスリム民族派勢力に権力を渡さず、違うタイプの傀儡政権を維持しようとするアメリカ、英国、その他の国の影が各地でちらつく。日本の主要大手メデイアは、ムバラク後の政治や権力の趨勢、軍部の動向への憶測が盛んであるが、もっと深いところでの事態の真相に分け入る報道ができないし、多分するつもりがないのだろう。(情報分析力のひ弱さは、どこから来るのだろう?)
2,日本のメデイアの批判精神欠如や、報道の奴隷精神については、このところ、いつも感じるが、ここにきて本当に情けない状態になっていると思う。
数日前の、民放の、日航再生をめぐるドキュメント放送も(「ガイアの夜明け-JAL再建の真実」2月1日、TV東京)作為的なものだった。スポンサーが日経新聞なのだから致し方ないとは言わせない。JALの企業の歴史的病巣と今日の危機の根幹に迫ろうとしないで、親方日の丸意識打破だの、経営意識改革優先だの、組合の既得権主張だのばかりが、前面に来るのはどうしてなのか。稲盛会長*の安全最優先の、会長応諾就任時の約束はどこにいったのだろうか。
とりわけ経営破綻のツケをもっぱら労働者に強いる今回のやりかたは非道である。(例えば、空の安全と労働条件の正当な要求を掲げて戦ってきた「日本航空キャビンクルーユニオン」(CCU)856人の内、50歳以上の組合員140人が退職強要を受けている。これは、狙い撃ちであり、企業の御用組合のメンバーの50代以上の大半が管理職で解雇対象外となっているのとは対照的である。)ベテランで経験豊富な人材を単純に年齢条件だけで首を切る、あるいはある時点での病気や一時的休職者などを狙い撃ちにして、組合との話し合いも誠実に対応せず、時間を区切って解雇者を発表するというやりかたは、企業のエゴ意識だけがむき出しになっていると言われてもいたしかたがない。整理解雇対象者のパイロットには、白紙のフライトスケジュールと退職に向けた面談の通知書が渡され、それらの嫌がらせの上で、解雇者リスト発表であった。また、希望退職をつのって、すでに目標の1500人を達成したにも関わらず、さらなる整理解雇発表であった。(2010年12月31日、JALは202人に解雇を通知)
労働者保護の最低ラインの一つである整理解雇の最高裁判例の4要件*を満たさない解雇は不当である。(例えば、あさひ保育園事件 最高裁 昭58.10.27)
この4つの要件とは、
- 人員整理の必要性:整理解雇の必要性が本当にあること(会社の維持・存続を図るためには人員整理が必要であること)
- 解雇回避努力義務の履行:整理解雇を避けるための努力を会社が尽くしていること(解雇に先立ち、退職者の募集、出向その他余剰労働力吸収のために相当の努力が尽くされたこと)
- 被解雇者選定の合理性:対象者の選定に合理性があること
- 手続きの妥当性:労働者側との間で十分な協議が尽くされていること(解雇の必要性・規模・方法・解雇基準等について労働者側の納得を得るために相当の努力がなされていること)
例えば、茨城労働局のHPにも上記の事例紹介がある。http://www.ibarakiroudoukyoku.go.jp/soumu/qa/taisyoku/taisyoku04.html
上記に照らせば、JALの今回の措置、<55歳以上のパイロットや機関士などの首切り、客室乗務員は53歳以上の解雇>という、機械的結論には、根拠が弱い。
現在の、経営努力と空の安全を慎重に考えての長期的な指針が何故出せないのだろうか。過去の、運輸族、財界、政治家の悪行には一切触れず、御巣鷹山墜落事故の問題性にも触れない。はたして、巨額の借金を押しつけられたジャンボ機購入、採算性のないホテル等の投資、土地購入などは誰が責任をとるのか。これでは、「沈まぬ太陽」に描かれた時代の、反省と教訓が、何も生かされていないことになる。
民放も公共放送の一翼を担うはずである。放送するのであれば、それらに触れることが必須である。しかし、そういう視点はなく、整理解雇対象外の「優秀」社員によるカスタマーサービスの奮闘物語で、お茶を濁すのは事柄の本質をずらすばかりで、まったくひどい。
当事者たちは、2010年12月31日に裁判所に提訴**するとともに、2011年2月2日にILOに訴えて出た***。当然である。
<日航2労組>整理解雇でILOに申し立て>***
僕の鬱気分は、冬の季節もあるが、この国の政治、経済、メデイアの劣化に因るところも少なくない。鬱は、たたかって、行動を起こして吹き飛ばしたいものである。
<補注>
*稲盛和夫という人物を、持ち上げる人がいるが、僕には、よくは分からない。K大学は「稲盛アカデミー」なるものを設置して研究員を配置している。知人にもそこで仕事をしている人がいる。彼の独自哲学や思想について、よく読んだ訳ではないので、個人的な思想や資質について書くことは避けよう。ただし、知り得る、公的人物としての稲盛氏は、京セラ創設者会長という企業人というだけでなく、民主党創設時のフィクサーであり、消費税推進論者であり、組合等についての懐柔籠絡にたけていることがよく知られている。今回のJAL会長職は、企業人としての一家言をもつ人物、安全優先にプリンシプルを持つ人物として「期待された」就任というのが政治的コンセプトであった。しかし、その「期待」なるものは、いかに信頼たり得ないものであったかは、今回の事態を見ても明白である。
「JAL不当解雇撤回」裁判提訴**
http://jfau.phenix.or.jp/kaikotekkai.html
日本航空不当解雇撤回裁判提訴にあたって
本日、私たち146名(パイロット74名、客室乗務員72名)は、去る12月31日に日本航空が強行した165名の整理解雇は違法・不当であるとして、東京地裁に提訴しました。
私たちはこの裁判で第一に、今回の整理解雇が、これまで多くの労働者の闘いによって、築き上げられてきた「整理解雇4要件」①高度な必要性 ②回避努力義務 ③人選基準の合理性 ④労使協議手続きを根底から覆す無謀・非道なものであり、断じて許されない行為であることを明らかにしていきます。
第二に、日本航空再建で、国民から求められているものを明確にします。現在進められている再建計画では「安全性」と「公共性」が後回しにされ、金融機関等のための利益確保が最優先で進められています。日本航空に働く者が安心して働ける職場環境の実現は、安全運航の基盤であり、再建の要です。公共交通機関としての役割を果たす真の日本航空の再建を求めていきます。
第三に、日本航空が経営破綻に至った「原因と責任」を明らかにします。これまでの歪んだ航空行政の責任を免罪したまま、現在政府の主導で「会社更生法」下での再建が進められています。また同時に、長年に亙る日本航空の放漫経営ぶりを明らかにし、原因が労働者には、一切ないことを論証していきます。労働者犠牲の再建は、誤りであり、国民が期待する再建に逆行するものです。
また、今回の整理解雇の特徴は、人員削減だけを目的としたものではないことです。希望退職から整理解雇に至る経過を検証すると、職場の要求実現に向けて先頭に立って活動してきた労働組合役員を排除する意図が、明瞭となっています。日本航空経営はこれまでの数々の違法行為を繰り返し、その度に裁判所や労働委員会から断罪されていきました。経営は、「過去と決別して申請JAL」を標榜していますが、違法・不当な労務政策こそ決別すべきものです。
今回の解雇事件に対しては、航空界だけでなく全国の労働団体や女性団体などの市民団体。また法曹界などからも熱い支援の声が寄せられ、その組織人員は、350万人を超えています。これに加え、国際運輸労連(ITF)や国際パイロット協会(IFALPA)からの支援も集まっています。また、国際労働機関(ILO)も調査も始まりました。私たちは今回の裁判が、労働者の権利を守る闘いであり、同時に日本航空が公共交通機関として、「安全と公共性」を基本とした利用者に信頼される再建を目指す闘いであると考えています。
わたしたちは、法廷内だけでなく、法廷外においても「不当解雇撤回・原原職復帰」を目指して、全力で闘う決意です。多くの皆様のご支援とご協力をお願い申し上げます。
2011年1月19日
JAL不当解雇撤回裁判 原告団
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