11月26日 水
イアン・グリア(Ian Greer)に会ってのインタビュー。(15:30-16:40)
彼は、リーズ大学・ビジネススクール(LUBS:Leeds University Business School)のポスドクの若手研究者で、コーネル大学のポスドクでもある。米国人。詳しい経歴と業績は以下にある。http://www.wun.ac.uk/rcc/pdfs/econference/participants/Ian%20Greer.pdf
普段は、ロンドンで研究していて、月に数回、リーズに来て研究している。英独の労働組合、労使関係、社会的企業の比較調査を行っている。彼が現在所属するリーズ大学ビジネス・スクールは、米国型のプロフェッショナルスクールの取り入れだろう。修士(MBA)の学位を出す。http://lubswww.leeds.ac.uk/lubs/
世界のトップ100のビジネススクールで48位とランキング公表している。しかし、その歴史は新しい。リーズ大学に隣接していた歴史の古いグラマースクールの建物や教会を買い取り(グラマースクールは別の場所に移転)、内部を改装して出発している。グラマースクールの建物だったせいか、内部は、複雑で廊下でいくつもつなげている。そういうわけで、イアンの部屋にたどり着くのに難儀した。研究室は、他のポスドクと共同使用らしく、別のコモンルームに行って話を聞いた。
最初は、英国及び欧州(とくにドイツ)の労働市場や労使関係についての概観的な話。当方が、その分野の専門ではないので、突っ込んだ話にはならない。いずれにしても、英国に限らず、米国型ネオリベ政策のこの間の力は強く、教育・訓練の後には仕事に就くことを強いるワークフェア政策については、ドイツについても強力な潮流になっている。この間、英国に限らず組合の力は弱められてきた。ただし、市場経済型だけでなく、大陸諸国は、就業政策については、国家の関与が大きい。例えば、ドイツでは、よく知られるデユーアルシステムの普及だけではなく、失業者が失業期間中に教育・訓練を受け、さらに仕事を獲得するまでの助走期間には、国家支援補助があり、それが自立への優位な政策になっているという。ただし、この間の米国金融危機により、ドイツも失業率が急増しており、これにどう対処するのかが問われている。イアンは、米国人であり、国際比較には関心があるが、英国の歴史的文脈にはあまり関心がないようだ。ジーン・ガーデイナーを介しての紹介だったので、社会的企業について聞きたいと伺っているのでということで、彼が以下に話してくれたのが、結局、この日の有益な情報の主要点だった。
ひとつは、ブレアを引き継いだブラウン政権(ニューレイバー政権)の下で、LEGI(Local Enterprise Growth Initiative)が進められてきたこと。とくに、この地域では、Camberwell Projectが重要という。これは、2003年暮れに僕を含めて調査チームが、貧困地域の東リーズファミリー学習センターや成人教育ワンストップセンターを訪問したことがあると、僕が言ったのでそれに彼が反応してのことである。その East Leeds
二つ目は、なぜ、イアンが、この事業にコミットしかつ関心を持ったのかは social entrepreneurという理論的・実践的枠組みがあるからだろう。また、この事業は、どちらかというとNPOベース、コミュニテイベースの取り組みでもあるという。社会的排除との関係では、ブラックカリビアンの人々の文化的アイデンテイテイの復権(カーニバルの開催)、若者の犯罪やドラッグ吸引、アルコール依存などの縮減、小規模経営であっても、営業の見通しをつけること、地域に就業数を増やすことなどが、重要という。また、学校への支援も行っているという。ただし、実験学校は、英国の別の地域で展開しているようだ。http://www.sse.org.uk/about.php?sub=WIASE
しかし、イアンは、教育学的な関心はあまりなく、その経済的地域再生に関心があるようだ。Jamie Peckの Work Fare Statesが彼の推薦した本だ。http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-us&field-author=Jamie%20Peck
別の約束もあって、時間がなくて、この日はここで、インタビューを打ち切った。
11月27日 木
この日は、シェフィールドへ行って、WEA Yorkshire & Humber Region のTutor OrganiserであるJol Miskin氏と会ってインタビューを行う予定をたてていた。リーズからは、列車によってかかる時間が違うが40-60分程度の距離である。途中、ウエークフィールドやバーンズリーを通っていく。会う場所は、WEA事務所だと、車では便利だが、鉄道では不便だというので、駅から近いという意味で、シェフィールドハーラム大学(Sheffield Hallam University)にした。ポリテクニックから昇格した大学で、建物はその分近代的である。
ブラックウエル書店前で待ち合わせして、そのそばのカフェで話を聞いた。(11:00_12:30)ジョー・ミスキンさんは、気さくで好意的で誠実な方で、僕は親近感をもった。
WEAについての、歴史や今の状況はどれくらい知っているか、なぜコリン・ソーン(前ヨークシャー地域WEA代表)氏を知っているのかというので、僕の有しているWEA情報やこれまでの調査や訪英体験を話してみると、喜んでくれて、それでは、そういう全体的な話はしなくてよいので助かると、資料パッケージを下さった上で、早速この地域のWEAの活動の特徴や力を入れていることを話して下さった。政府のこの間の非職業型、非資格付与型、非学位付与型の成人教育への予算カットや冷遇視は変わらず、NIACEなどは大いに反対キャンペーンを張っている。
http://www.callcampaign.org.uk/
しかし、他方では、深刻な地域、経済格差もあり、それらは、社会的不安や犯罪の防止、人権上も放置できないことから、人々に積極的な人生の展望を持ち、学習による視野拡大の重要性からブレア時代のデビッド・ブランケット大臣の生涯学習重視の方策が、部分的にブラウン政権にも反映してきた。非職業型、非資格付与型、非学位付与型の成人教育は、もはや大学や継続教育カレッジでは実施ができにくくなったり、廃止されたりしてきた。(全国の大学成人教育部局の改廃、近くのノーザンカレッジの状況など互いに共有できた意見や情報が多かったが、ここでは省く)しかし、全国ネットのボランタリ-団体たるWEAの活動には積極的支援がなされているという。とくに、低所得、不利益層へのActive Citizenship Educationが、この地域の活動の特徴でありユニークさだという。それらへの参加は、そうした階層の人は無償になる措置(政府補助)がとられているという。Active Citizenship Educationは、Political Literacy, Community Involvement, Social Responsibilityの三つが柱で、この間面白いことが多く生じて成果があるという。例えば、ボランタリーな学習グループがバーンズリーに1つ(主に白人労働者階級)、シェフィールドに12(多様な人種・年齢・性・職業など)できたが、Political Literacyでは、これまで一度も投票に行ったこともなく、政治にも関心がなかった人たちが政治の重要性に眼が開き、大きな地域の変容の力になっているとか、writing course groupの中には、参加者でブログをつくり、本の出版も行う人たちもでてきたという。これらには、大学の若手の研究者も協力しているという。
http://sheffieldpals.blogspot.com/
また、Active Citizenship Educationには、学校での取り組みもあり、クリックレポートが参考になるという。http://www.qca.org.uk/libraryAssets/media/6123_crick_report_1998.pdf
まだ、多くの話ができたが、それは双方の考えが共有できたという意味で僕には有益であったが、ここでは省いておこう。また機会があれば、会おうということになって別れた。
最近のコメント