週末近くは、金曜日に教授会、夕刻からの博論研究会。夕食をとる余裕もなく、帰宅が11時頃になる。
昨日土曜日5月16日は、子どもの権利条例制定市民会議、4周年記念の総会とシンポジウムだった。参加者は、30数名、市民、教員、学生、議員、自治体職員、など参加者の所属も多様であり、こどけん会員ばかりでなく、ネットの案内や新聞を見て参加された方もあった。中には、遠く函館からの参加者や、北広島市など札幌市近隣からの参加者も少なからずあった。
出かける時に見かけた地下鉄の階段窓からの蝦夷桜。もう散り際だ。
イラストはこどけん会員のOさん。
この催しの案内は、地元紙に掲載された。
00203950800020395080109.5.15.pdfをダウンロード
札幌市の子どもの権利条例について、多少の解説を加えておこう。
昨年11月7日に「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例」が制定された。同条例は、憲法及び国連子どもの権利条約(「児童の権利に関する条約」1989年、日本政府は1990年署名、1994年批准)を法的基盤として、札幌市の地域基盤に即して制定されたものである。政令指定都市では川崎市に次ぎ、道内では奈井江町に続いての二番目の条例である。制定に至るまでは、市長選挙をはさんで、市民運動は、前後二度の不採択にめげることなく、粘り強く運動を進めて、最終的に議会で多数決の採択にこぎ着けたのである。ここでは、詳しくは書けないが、運動に関わって身近に眺めていると多くの紆余曲折があった。
この条例の特色は、以下にあろう。札幌市子ども未来局が発行する条例解説パンフ(「こどもがきらりと輝くまちに」2009.3)が分かりやすく、述べているのでその骨格を紹介しておこう。
なお、札幌市の子ども施策に関する多様な情報と条例や制度については、「子ども未来局」の次のURLを参照されたい。http://www.city.sapporo.jp/kodomo/kenri/index.html
まず、この条例の特徴は、3つである。
一つは、全体のねらいである。(前文、第1章総則)同条例は、①自立した社会性のある大人への成長支援、②子どもの視点に立ったまちづくり、③権利の侵害からの救済、の三つを掲げ、条例(札幌市)はこれらを促進し、子どもたちにその実施を「約束」しているのである。
この場合、子どもの権利(「子どもの権利の普及」(第2章、第4条ー6条)、「子どもにとって大切な権利」(第3章、第7条ー11条)について、同条例は次の4つの権利を明記し、掲げている。①安心して生きる権利、②自分らしく生きる権利、③豊かに育つ権利、④参加する権利、である。また、そのために「生活の場における大人の役割」(第4章)、権利を保障する仕組み(第5-7章)が設定されている。
二つ目は、生活の場における大人の役割を設定していることである。
具体的には、①家庭における保護者の役割(第4章第1節)、②学校や施設における職員の役割(第4章第2節)、③地域における市民の役割(第4章第3節)、④札幌市の役割(第2章、第4章)である。ただし、これらの多くの条文は、理念的努力規定として書かれており、その具体化は、住民と子どもからの切実な要求と実施をせまる運動水準に規定されることになると僕は思う。
三つ目は、権利を総合的に保障する仕組みを掲げていることである。
具体的には、①子どもの権利の侵害からの救済(第5章)、②子どもにやさしいまちづくりの推進(第6章)、③子どもの権利の保障の検証(子どもの権利委員会)(第7章)である。この三つ目の内容が、制定された同条例の中核をなすとともに、新たな実践的な課題を含むものといえる。
実は、昨日5月16日のシンポジウムのねらいは、この間「こどけん」がシリーズとして、追求している、条例の実質化の核となる子どもから(親や関係者からも)の相談・調査・調整・救済制度の内容について第一回の検証を加えることであった。
シンポジウムのテーマを「子どもの権利、救済制度ってなあに?」にしたのは、上記の理由からであった。
とりわけ、4月1日から発足した、①救済委員、相談員、調査員と「子どもの権利救済事務局」との四者の連携による実際の動きがどうなっているのか、②それに対して市民や教育現場からの期待、要望、疑問点などを出すなかで、参加者と共に考え、意見を交流し、条例制度の活用に関して、札幌市の今後の積極的な展開を見守り、応援しようという企画である。
報告者には、香田研さん(子どもの権利救済事務局次長)、シンポジストには、救済委員(二人が任命された)のお一人である薄木宏一さん(弁護士)、市民の側からの要望や受け止めと実際の状況について、牧口充枝さん(小学校教員)、伊東牧子さん(元検討委員、社会福祉士)から報告を頂いた。
まず、香田さんからは、同制度の概要について以下の骨格で、報告いただいた。(当方で要約した)
1)名称は札幌市子どもの権利救済機関「子どもアシストセンター」としたこと。
2)条例上の権限は、相談及び救済申し立て対応、調査・調整活動、勧告・意見表明、是正等の要請、公表である。
3)運営方針としては「子どもの最善の利益」を判断基準とし、子どもの気持ちに寄り添い、子どもが自らの力で次のステップに踏めるよう支援する。
4)相談・救済申し立ての基本的対応は、相談は権利侵害だけでなく、幅広く受ける、相手をいさめたり、白黒をつけることはしない、関係者が相互に理解し子どもを支援できるようにする。
5)運営体制は、救済委員2名、調査員3名、相談員7名、事務局4名である。
6)開設場所は子ども未来局と同じビル、相談時間は、平日午前10時ー午後8時、土曜日は午前10時-午後3時である。
7)その他、取り扱い対象要件として、18歳未満(ただし高校の場合は同じ環境にある場合は18歳以上も可)、通学在勤が市内であれば、市街地在住でも受け付ける。相談は幅広く、申し立ては事案の3年以内のものを対象とする。
次に、2009年4月からの子どもの権利条例にもとづく新たな相談・調査・救済制度の運用実態について、具体的な統計数値もあげて報告いただいた。例えば、数字は以下である。
①四月中の1ヶ月の統計として、相談件数が611件(電話相談240件、面談10件、メール361件)あり、これは条例発足前の子どもアシストセンター(電話番号が同じ)のおよそ年間3000件の相談数(1ヶ月約250件)の2.4倍であり、明らかに条例発足効果が見られること、
②このうち子ども本人からは434件(70%)、親(主に母親)からは138件(22.5%)である。③子どもの属性は、小学生177件(40%)、中学生137件(31.6%)、高校生30件(6.9%)である。
④性別では女子362件(60%)が多く、残りは不明と男子である。
⑤相談内容は、
イ)学校生活(友人関係やいじめなど)301件(49%)、
ロ)家庭生活(養育しつけ、親子関係など)、143件(23.4%)、
ハ)性格行動43件(7%)であり、
全体としては、学校での友人関係での悩みが一番多いことが報告された。
次いで、救済委員の薄木さんからは、1ヶ月半の活動を通して(薄木さんは週2日を当てている、残り3日はもう一人の救済委員の市川さんがあたる。なお、アシストセンターには、事務局と、相談委員、調査委員も、救済委員と同じ場所にて活動を行う。)の感慨と所感をお話しいただいた。要約すれば、おおよそ、以下の内容であった。(文責は、ブログ発行者にある)
一つは、相談件数の多さとその内容の多彩さであること、二つ目は、この救済機関は、単なる相談だけの機関でもなく、単なるカウンセリング機関でもなく、広く子どもの権利や悩みに関して話を受け止めて、多様な解決の方向を見いだしていく役割を持っていること、三つ目は、制度が発足したばかりなので、救済委員は、相談員、調査員、事務局と相談し連携しながら毎日新たな事例に接しているので、まだ対応には試行錯誤の側面はある。ただし、そのことがこの機関に活力を与え、生き生きとした力を与えている。四つ目は、相談にあたっては、たらい回しにせず、信頼をかたちづくりながら誠実に対処している。社会の中のトラブル、経済状況、人間関係の困難が、相談に反映している。本来は家庭や地域や学校で解決可能な事柄も当事者たちは相談せざるを得ない状況が伺え、子どもたちや親の孤独や悩みが受け止められる。救済委員としては、弁護士としての仕事の経験が生きている面もあるが、新たな刺激や知見も多くやりがいがある。本業との矛盾もあるが、しっかりやっていきたい。
市民側の牧口さん、伊東さんからはおおよそ以下のことが話された。
・教育現場では、条例を意識して教育実践をしている教員はまだ少ない。子どもの権利の保障は、教員としての自分の仕事が問われる面があることを自覚してきた。
・子どもの権利条例ができて、前よりも職場で子どもの権利や子どものことについて意見が言いやすくなった。
・教育委員会を通じて、子どもの権利条例の解説パンフレットが配られたが、小学校低学年用がつくられていないのでつくってもらいたい。また、昨年まで配布されていた、子どもの権利条約のパンフが予算上からか配布されなくなった。これは引き続き配布するか、権利条例のパンフに盛り込んでもらうとありがたい。奈井江町では、子どもの権利条例について学ぶ時間が年間カリキュラムに組まれている。札幌市でもそうあってほしいと感じている。
・相談・調査・救済を形式的に分けるのではなく、連携協議しながらの一体的運用に大いに期待している。
・相談において、虐待と体罰の形式的区別で担当機関に回すのではなく、幅広く受け止めて子どもの実際の悩みに即して、応答してほしいので、そのことを強く期待している。
・教育、福祉、医療、など関係諸機関の連携を促進する調整機能を発揮してほしい。
・現在、日本では(とりわけ北海道では)子どもの貧困が、顕在化してきている。母子家庭など社会的にも経済的にも立場の弱い人たちに矛盾がしわ寄せされている。そうした子どもの悩みや保護者の子育ての悩みに寄り添って実際の支援を行っていただきたい。
これらの報告には多くの意見が寄せられた。当日の時間の制約もあって、充分な展開ができない面もあったが、充実したシンポであった。
僕は、以下の印象と感想をもった。①あらたに発足した救済機関が、相談にあたって「たらいまわしをしない」原則と対応をされていることが強く印象に残った。②旧アシストセンターも誠実に相談業務を行ってきたが、今度の子どもの権利条例で、事務局の仕事の原則にバックボーン(背骨)ができて志気が高まったという話に好感をもった。③これまで、カバーできなかったような領域で、子どもの権利救済の具体的な道筋ができた。風穴があいた。相談件数が増加していることはその端的な証左だ。④制度も運用も、まだ完全ではなく、相談員、調査員のメンバー構成や救済委員が2人だけで良いのか、どのような分野の専門家が新たに必要か(たとえば児童精神科医)など、今後まだ検討が必要である。今後つくられる子どもの権利委員会についても市民側から要望を出していくことが求められる。⑤事例検討会議などを通じて相談、救済の応対ルールがつくられていき前進面もでるであろうが、あまりきれいに整理せず「ごった煮」の良さも残してほしい。予算の増額は、実績が大いに前提であり、市民運動としてもこの制度の活用のPRを大いにしていきたい。
シンポ会場は、耐震改修工事を終えてオープンした市民ホール会議室を会場とした。指定管理者は、Dハウスという住宅企業だった。そこまで指定管理者が及んでいるのだ。
それはともかく、シンポジウム終了後、こどけんメンバーで懇親会をもった。前共同代表のTさんも名古屋から参加され、この日は慶事を公表されたメンバーのIさんももいらっしゃった。Iさんには、皆から花束の贈呈などもあり、和やかで、大いに盛り上がった会だった。
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