リーズ大学の二人の研究者の来訪があり、先週一週間、三つの異なるタイプの高校(K工業高校、I高校(総合学科)、E高校(普通科、職業科併設))の訪問調査と、彼ら二人の専門分野での研究課題と動向を明らかにする公開セミナーを行い、夜は夜で色んな場面での交流・懇親を行い、また今後の共同プロジェクトの可能性を討議した。僕の家にも一回招待して楽しい夕べを過ごした。ほぼ、一週間張り付いて彼らと共に過ごした時間は、楽しいかけがえのないものでもあった。(試験期間など多忙な時期に、快く訪問調査を受け入れてくださった各高校の教職員の先生方に感謝を申し上げます。)
自分の研究については、時間がその間まったくとれず、正直いらだちもなくはなかった。とはいえ、具体的な実情については、あまり詳しくは知らなかった現局面でのH道地域の高校の具体的な教育実践、カリキュラム、入試、生徒の置かれている進路や悩み、地域のニーズ、時代や社会にあわせた学校改革の実態を知ることができたことは収穫だった。また、英国人研究者の視点からの質問において、日本側があまり発想しない、あるいは意識しない内容があって興味深く感じた。例えば、高校の教育課程・カリキュラムデザインにおける政策決定のメカニズムへの関心、とくに産業界からの関与はどのように存在するのか。困難を抱える生徒への教育学的知見にもとづく支援の具体的な方策はどのようになっているのか。職業志向や選択におけるジェンダーバイアスの打破のための努力はどのようになされているのか。職業・キャリア意識醸成に働く教師の資質や養成・訓練は、どうなっているのか。とくに労働体験の有無へのこだわりが彼らには強い。また、教職資格をもたないが特定分野の熟練・専門知識・技能を有する人材の学校への配置に関して英国は盛んだが、日本ではどうなっているのか。カリキュラム研究分野の研究に関する比較研究の進展具合はどうなっているのか。などなどである。僕の研究分野や視野ではカバーできない面もあるが、彼我の問題意識の異同が分かり面白いものだった。
他方では、彼らの公開セミナーでの報告を通じて、英国(とくにEngland)のカリキュラム研究の実情を深く知ることができたことも大きい。ジェレミーはどちらかと言えば、政策的背景、理論的・実践的な枠組み、論争点の英国での議論所在を、ドイツ調査やスペイン・フランスとの比較をふまえて理論的に解析し、デビッドは、ドイツ調査、英国の12校の調査をふまえて、3類型化して具体的に報告するものであった。
これらには、終了後多くの文献や政策資料示唆の約束をしてくれたのがありがたかった。彼らのパワーポイントスライドで示された簡潔な構造化の方法意識は、独自な視点も多く、興味深いものでもあった。余談だが、この日や別の日での質疑において、シェークスピアの箴言やシャーロックホームズのミステリー構造を持ち出すのもいかにも英国人らしかった。これは、下手な通訳の僕を多少こまらせたが、プレゼンの文化差かも知れないと思い、世界に通じる日本の古典は何かなと思ったりもした。
いずれにしても、事例の整理方法を含め、彼らとの多様な場面での討議を通じて、英国の大学の研究潮流の文脈を知り、日本の実情と意見交流できたことは貴重な成果であった。
高校訪問調査にあたっては、リーズ大学の二人にはあらかじめ質問項目をつくるように要請し、それを僕が事前に日本語に訳して各高校に送ったこと、学校選定にあたっては、僕の知り合いの教師のいる学校であって,かつリーズ大の二人の要望に添う学校を合致させたこと。日頃の地域の運動や教育実践、教育研究での知り合いの教師たち(K工業高校のkah先生、I高校のSK先生、E高校のI先生、ありがとうございました!)を通じて、校長先生や教頭先生に事前にお話頂き、当日を迎えられたことが今回の比較的スムースな訪問調査につながったのだと思う。
僕は、運転手、質問時やあらゆる場面での通訳兼ガイド、現場高校とリーズ大学メンバーとのコーデイネーター、日本の教育の実情についての説明役などすべてを兼ねての日々だった。(訪問調査に、同行していただいた同僚のKさん、Uさん、そして若手研究者のAさん、院生のYさんありがとうございました。)
今回の成果のもう一つの副産物は、調査の順調さとともに、僕の所属する部局の僕よりも若手の研究者たちと彼らをつなぎ、次の共同研究の芽を広げることができたことであった。今後のことを考えると何よりも嬉しいことであった。さらに、全体を通じて、十月の僕の訪英滞在時に考えるべき素材を多く得てプラスにもなった。
総体としては、原稿の遅れでのいくつかの不義理が解消できていないものの、前向きに考えてみれば、彼らに多謝である。共に過ごした時間の中で、相互に信頼関係が深く強いものになったことは、韓国の研究者や中国の研究者と深く研究的、実践的につきあった中で感じたことと共通するものであり、僕にとって嬉しい時間だった。
公開セミナーとその後の懇親
今後の共同プロジェクトの可能性を探る討議。キャンパス内の風景。
最終日、E高校の訪問調査、教授会での彼らの挨拶、夕刻からのイタリアレストランでのフェアウエル・パーテイを終えて、彼らの札幌での滞在は終了した。
J.ハイアム氏とD.ヨーマン氏は、無事今度は東京に移動し、週末は東京での休日を楽しみ、週明け前半に、ST大学のI氏の協力を得て、今度は東京地区の二つの高校訪問調査を行い、その後帰国する予定だ。成果が多いことを祈ろう。
僕は、週末午後に、科研費研究での研究会で、生涯学習分野での日英韓の比較研究について報告して、ようやく一週間が過ぎた。次週は、大学院入試業務があり、また緊張を強いられる日々が待っている。一歩、一歩だ。
p.s. 東京移動後ジェレミーからメールが来た。成果を確認できる内容だった。
9月6日夕刻メール
Dear ×××(僕のこと),
We are now in Tokyo having had a good flight and journey. It is really very warm and humid here, and very busy - Hokkaido is much better!
As we mentioned at the faculty meeting yesterday, we are immensely grateful to you and your colleagues for all the help, hospitality and friendship that you extended to us. The visits to the schools and the related discussions with you and your colleagues in the car and afterwards back at the University were most helpful to us in taking our thinking forward - thank you.
It is clear that we have a very good basis with which to move our research relationship forward in the future.
All the best, and see you soon!
Jeremy and David
最近のコメント