11月12日 水 晴れ間が時折現れ、気持ちがよい。
第3週が過ぎて4週めにはいってきて少し調査などの事始ができるようになってきた。それで、今日、社会政策学科のニック・エリソン(Nick Ellison)教授に短時間ながらお会いして、トニー・ブレア政権、さらにゴードン・ブラウン政権のいわゆるニューレイバー政策の含意を聞いてくる予定をたてた。
http://www.sociology.leeds.ac.uk/about/staff/ellison.php
以前に予備調査もした、シュアスタート、コネクションズ、ニューデイール、14
-19歳教育政策、高等継続教育政策、雇用と職業技術資格政策、などワークフェア政策(train and gain)の現況や評価が中心になるかと考えた。社会的排除へのオルタナテイブは、そんなに簡単なものではないが、研究面では何が関心事とされているか、それらを聞くのが主なねらいである。
ついでながら超不人気のブラウン政権は多分次期の総選挙では持たず、保守党の若いリーダー(デビッド・カメロン)に率いられる政権に変わりそうだとのもっぱらの下馬評だが、その場合、どのような政策基調になるのか。それらも聞きたいことのひとつだが、テーマが大きいので多分聞くゆとりはなさそうだ。
その結果はこの頁の文末に記載した。
<閑話休題>
宿舎にある本以外に、書架の本やファイルも少しずつ増え始めてきた。
研究室の窓からの他部局の建物の間の樹木は、まだ葉を落としていない。
<これからの予定>
今月末には、若い研究者のイアン・グリア(Ian Greer)から雇用・失業問題を聞き、そのほかに成人教育実践家のカロライン・ソーン、WEAで長く働いたジョー・ミスキンにもインタビューする予定だ。リーズ大学には、近くミリバンド外相の講演があり(彼は、年配の人はご存知の政治学者ラルフ・ミリバンドの双子の息子の一人だ。次期の労働党のリーダーと目されている。)それものぞく予定だ。
来週には、IAさん(グラスゴー大学滞在中)、HMさん(リーズ大学の滞在の後、アイルランドのコーク大学に滞在中)、MKさん夫妻(ハダスフィールド大学滞在中)と、リーズで会食して情報交換する。高等教育の政策については、グラス
ゴーカレドニア大学に転出が決まった、デビッド・スミスにインタビューをする予定だが、まだ日程調整ができていない。
12月には、僕のセミナー報告やシチズンシップ教育のセミナーに出たりする予定だ。
<ニック・エリソン教授のインタビューその1>
11月12日
前日に、JasにSocial Science Building の位置を確認しておいた。しかし、Nick Ellison教授の部屋を、社会科学棟の入り口のポーターの人に尋ねるが、分からないという。3階の社会政策・社会学セクションのレセプションでようやく分かる。約束した時間に行くと、先週メールを送っておいたのに、彼の秘書のジョデイが、伝えていなかった模様だ。ちょうど講義と講義の合間だったが、1時間弱しか時間が取れないということになった。そこで用意した質問には、詳しくはすべては聞けないので、来週もう一度時間をとっていただけることになった。
1、トニー・ブレアとゴードンブラウンについて
ブレアは、ニューレイバーをうたい、第三の道を掲げて華々しく登場したが、失政も行い、最後はフェードアウトして退陣した。選挙もなく代わったブラウンは地味で、労同党左派筋、オールドレーバーの印象があった。その意味では、それらの人々には、当初期待する面もあった。しかし、時代は変化しており、政治は複雑に動き、彼の手腕の限界がすぐに目立ってきた。彼は、ブレア政権の蔵相だったので経済政策を期待されたが、それもうまくコントロールできてこなかった。しかし、彼はブレア時代のすべての政策を引き継いだが、実は何も積極的にリードしなかった。功績があるとすれば、ヘルスサービス部門のいくらかの前進だ。その他は、殆ど積極的な施策を展開してこなかった。あるいはできなかった。このあたりは、いくらかの若手の労働党リーダーとは異なる。ジョン・リーチ、デビッド・ミリバンドなどは、この点で期待されている。ブラウンの不人気は、多分に彼自身のパーソナリテイや指導性に起因している。この国の福祉国家政策は、再び再転換するのか、あるいはこのまま衰弱していくのか。これは大きな争点だ。
2、景気変動と失業問題
基本的には、事態は大きくは変動していない。緑書や統計が示すのは、若干の経済の好転が過去10年ほどあったかに見えたが、底辺部の失業の実態は変わっていない。ワークフェア政策は、失業給付ではなく訓練や教育によって職をあるいは収入を得ることを誘導しようとしたが、障害者や高齢者には効果がなく、それらの人々は特定化され、排除的な給付対象にしかならず、問題が多い。社会福祉は、救貧行政ではない。福祉モデル構築のありかたは大きなイッシユーだ。ここで、エリソン教授の本を贈呈される。
“The Transformation of Welfare States? “(2006,Routledge)
3 教育事象について
エリソン教授は、教育学が専門ではない、詳しくはないと断ったうえで、大学人としての感想としては、ブレア以降、教育訓練、高等教育人口の拡大が大きな政策潮流となったが、これには2つの側面がある。ひとつは、高等教育へのアクセスが拡大したこと。多くの人が大学ないし、高等教育を目指すようになった。問題は、大学がそんなに必要なのかどうかがわからないままに若者が目指すようになったことである。二つ目は、大学にこの間あまりにも多くが在籍するようになって、その学位の価値が下がってきた。(=ある種の学歴インフレ)労働市場で、学士は必ずしも優位でなくなってきた。それで、もっと高い学位(修士、博士)を求める動きも出てきた。英国の大学は、近年、4つの階層をかたちづくってきた。ひとつは、オックスブリッジ、インペリアルカレッジ、ロンドンスクールオブエコノミックス、キングスカレッジ、エデインバラ大学、あるいはマンチェスターが続くか。そういったトップグループ。もうひとつはラッセルグループ加盟の20ほどの大学(リーズもここに入る)で、中堅的な位置をになっている。そのほかに医学系をもつカレッジもこれにくわわる。三つ目は、1994年以降に急速に整備されてきた小さな大学群、ダーラム、ヨーク、ブリストルなど、4つ目は1992年法以降の新大学だが、その力はまちまちだ。トップの一部の大学は、高価な寄宿型の学部教育と研究に特化され、残りは多かれすくなかれ研究もあるが教育に重点がおかれてきた。リーズは研究と教育が半々だ。
14-19歳教育については、この間、多くのデイプロマがつくられつつある。
http://www.direct.gov.uk/en/EducationAndLearning/QualificationsExplained/DG_070676
(Foundation Diploma, Higher Diploma,Advanced Diploma, Progression Diploma) その数は2008年に3つ、2013年までに17とされる。例えば、16才以上19歳のadvanced diploma レベル3は、GCSEのAレベル(three and a half A levels)というが、多くの人は信用していない。Diplomaは、その後の進学にも、職業生活にも、徒弟訓練にも利用できるとうたっているが、アカデミックな科目と職業科目との連携、連結問題はおおきな研究課題。エリソン教授もプロジェクトでこの研究にはタッチしている。
シチズンシップ教育については、エリソン教授が親切に書物と有用なウエブサイトを紹介してくださった。
Education for democratic citizenship: a review of research, policy and practice 1995-2005/ Audrey Osler and Hugh Starkey. Electronic Book,2005
Education for democratic citizenship :issues of theory and practice/edited by Andrew Locker,Bernard Crick and John Annette, Ashgate,2003
National Foundation for Educational Research
http://www.nfer.ac.uk/index.cfm
Citizenship Foundation
http://www.citizenshipfoundation.org.uk
4 社会政策上の諸実験(シュアスタートその他)及び、貧困問題,雇用失業問題、北欧の福祉政策評価については、次回聞くことになった。(来週月曜日にもう一度会うことになり、もう少し詳しい質問文を送ることになった。)
さて、こういう風に当地の研究者に会って、いくつかの質問を重ねながら過ごす日々ができつつある。
最近のコメント